登山や渓流釣りなどで山に分け入る際、アプローチの最初は必ずと言って良い程、森の中を通ります。自宅に薪ストーブを導入して以来、単なる通過地点だったドングリの木などの広葉樹の森が、最近では薪の材料を調達するための目的地となりました。
陽光が一段と眩しさを増した4月の休日、所有者の許可を得てドングリの森に行ってきました。今回は、以前伐採して散乱したままとなっていたコナラの枝を集め、焚き付け用に手斧で適当な長さにカットして搬出しやすいようにまとめる作業です。これがなかなか大変です。
前の晩研いでおいた手斧を打ち下ろし、ひたすらバッサバッサと枝をカットしていきます。額から流れ落ちる汗をぬぐって一息入れると、傍らにはカタクリの花がそこかしこに咲き乱れ、森全体が本格的な春の到来を告げているかのようでした。広葉樹の森は、冬から春先にかけて適度に日が差してカタクリの花が生育するのに丁度良い環境なのです。豊かな森の恵みに感謝しつつ、再び森の中での作業に勤(ルビ=いそ)しんだのでした。
さて、後段は前回に引き続き、昨年の民法改正により創設された「配偶者居住権」について少し詳しくお話ししてみたいと思います。配偶者居住権は、配偶者以外の方がご自宅を相続した場合でも、優先的にその配偶者が引き続きご自宅に居住することを保証する権利であることは、前回お話しいたしました。
この配偶者居住権は、生存配偶者が長年住み慣れたご自宅に引き続き安心して暮らせることになるだけでなく、生存配偶者が居住している自宅の財産的価値を配偶者居住権と所有権とに二分することで、遺産分割の際に配偶者が居住建物の所有権を取得する場合よりも低廉な価額でその居住権のみを確保できるようになったところがポイントです。
民法の規定では、相続人が配偶者と子どもの場合、それぞれその相続分は1/2ずつとなります。例えば、遺産の内訳が、ご自宅の建物(時価500万円)、その敷地(時価1千万円)、預貯金が1500万円の計3千万円である場合で、配偶者が自宅の建物と土地を相続するといたしますと、それだけで配偶者の相続分の1/2となってしまい、子どもがご自分の相続分を主張した場合は、預貯金が子どもの方に行ってしまうことになり、配偶者の老後の生活資金が確保されないといった問題が生じることとなります。
これに対し、建物と土地は子どもが相続し、配偶者居住権を配偶者が相続することとした場合、例えば自宅の敷地1千万円の内、配偶者居住権の時価が100万円であるとすると、配偶者は自宅の敷地は相続しないで配偶者居住権だけを相続し、かつ、配偶者の相続分1500万円との差額の1400万円に相当する預貯金について配偶者が相続することが可能となります。この結果、生存配偶者は引き続き自宅に居住しながら、老後の生活資金も確保できるようになる訳です。
もっとも、子どもが自分の相続分を主張せず、遺産分割協議により生存配偶者が遺産の全部を相続できれば、上記のような問題は生じないのですが、不幸にも子どもとの間で遺産の取り合いとなった場合、今後は配偶者居住権の存在が重要なものとなるでしょう。